さて……
ようやく外にも出れたし、さっさと封印の解き方を探さないとな。よくわからんのは、あやつがこの剣を握ったときは実体化が出来るようじゃが……
完全に封印が解けている訳ではなさそうじゃ。 あやつが封印を解くカギやもしれん。 どうせまだこの剣からは出られんのだし、しばらくは同行するしかなさそうじゃ。あと、力も完全に出せている感じはしないのぅ。
さっきのあやつの戦いに使った力も、本来ならウォーウルフごときは姿形も残さないはずじゃがのう。 魔力を探知できる範囲も思ったより狭いな。 あやつがある程度強くなる前に強敵に出くわさないといいがのぅ。しかし、さっきの戦いは滑稽だったのぅ。
あやつがいた世界には剣も何もないのだろうか。 この世界は己の身は己で守らんといかんから、年端もいかない子供たちですら武器を使うことを教えられている。 あそこのなんとかっていう王もたぶんそれぐらいは出来ているだろうというところで訓練もせずに放り出したな。 これじゃ魔王を倒す前に、あやつが死ぬぞ。「ゾルダ、この先にはまださっきの狼みたいな怪物はいるのか?」
ワシが考え事しているところだというのに、あやつは尋ねてくる。
「はっきりと感じるだけでも、数十匹はおるようじゃ。
その先はもっとおるやもしれん」死なれては困るし、死なぬように教えておかんとな。
「そんなにいるのか?
いつになったら目的の村につくのやら……」あやつがため息交じりにつぶやいておる。
たかがウォーウルフごときで何をしておるのじゃ。「ほれ、そうこうしているうちに、すぐそこに1匹おるぞ」
少しは自信を持ってもらわないとのぅ。
魔王のところまで行く前に、旅を辞めかねん。「さっき、レベルが上がって、スキルを覚えたじゃろ。
1匹だし、今度は手助けせんから、1人で戦ってみろ」1対1だし、なんとかなるじゃろ。
出来るかぎり手助けをせずに、強くなってもらわないとな。 こんなところでくたばりでもしたら、ワシの封印が解けないしの。 いざとなったら手助けはしてやるがな。「1人でか……」
またボソッとあやつが独り言を言っておる。
相変わらず自信なさげじゃのぅ。「新しいスキル、新しいスキル……
これか。この【スピントルネード】ってやつは……」字のごとくそのままじゃろ。
何を深く考えているのじゃ。 じれったいのぅ。「あれこれ考えずにまずは使ってみろ!
あっ、あとスキル使うには、詠唱が必要じゃからのぅ」この世界に不慣れじゃから、いろいろと教えておかんと。
「詠唱?
何を言えばいいんだ?」そんなことは考えればすぐわかるじゃろ。
「そのスキル名を言えば発動するはずじゃぞ」
「えっ、そんな恥ずかしいことするの?
子供の時に遊んだヒーローごっこみたいにか?」「うーん。そのヒーローなんちゃらはわからんが、とりあえずスキル名を言え!
じゃないと発動しないぞ」「……わかった」
あやつは意を決したようにうなづいた。
「スピントルネード!」
唱えると、あやつの体がくるくる回り始める。
「うぁ~っ……」
そのままウォーウルフに突っ込んでいく。
「目が……目が……回る……」
このまま突っ込んでいっても、致命傷にはならんな。
ちょっと手を貸そう。「闇の炎(ブラックフレイム)」
これを剣にまとわせておけば大丈夫だろう。
「うぁ~っ……うっ~……う……」
相変わらずだらしがないのぅ。
「ドンっ……」
剣先がウォーウルフに当たるとともに、その場に倒れる。
どうやら倒せたようじゃな。「ふにゃふにゃふにゃふにゃ……」
あやつはろれつが回ってないような声を発しとる。
「ほれ、倒せたぞ。おぬし」
「き……気持ち……わ……悪い」
あやつは目が回ってフラフラしているようだ。
「そのうち慣れるから、まずはどんどん使え」
「え……勘弁してよ……」
「こんな調子で進んでいったら、全然目的地にはつかないぞ。
まだまだおるようだし、心してかかれよ! はっはっはっはっは」「気楽だな、ゾルダは」
おぬしこそ、こっちの苦労もしらずに言えたものじゃ。
気楽な訳ではないが、おぬしを鍛えていかないとこの先がやっていけないからのぅ。「さっさと進むぞ
先はまだまだ長いからのぅ」そんなこんなで、ウォーウルフを撃退しながら、シルフィーネ村までの道中を急ぐ。
ここまででどの程度倒したかのぉ…… あやつのレベルもそこそこ上がったようだ。 だいぶ1人で倒せるようになってきた。倒せるようになってきたこともあるようじゃが、だいぶ構えもまともになってきたな。
自信とは恐ろしいものじゃ。 ただちょっと浮かれているようじゃな。 痛い目をみなければいいのじゃが……しかしあの技には慣れんようだな。
他のスキルも覚えたんだし、それを使えばいいのに。それにしても……
この辺りにこんなウォーウルフがいたのか? なんかこの森は変だぞ。……っ
この気配……「おぬし、ちょっと隠れろ」
「なっ…なんだ、急に」
「あそこを見てみろ。
あれは、ウォーウルフの頭領のウォーウルフキングだな」「でかっ
あれが親玉?」あやつは目を大きくして驚いた顔をしておる。
この辺りにいないウォーウルフがこれだけいるのも、合点がいく。
これはちょっとやっかいかもしれんのぉ。「親玉だろうがなんだろうが、ここまで強くなってきたんだから、大丈夫だろ」
「ちょい待て、おぬし。
今までのウォーウルフとは訳が違うぞ」「ちょちょいってやっつけてやるよ」
あのバカはワシの話を聞いとらんな。
ワシのフルパワーなら、なんともない相手じゃがな。 ただ、あやつが強くなるにつれ、少しずつ力も戻ってきている感覚もある。 あやつのレベルと封印とどう関係あるかはわからんが、もしかしたらこれなら……「うりゃぁぁぁぁ」
あやつ、何も考えず突っ込みおった。
相当、天狗になっておるな。「ガシッ…」
ウォーウルフキングに剣があたる音が響いたが……
「あれ?」
「全然効いてなさそう……」ほれみたことか。
ウォーウルフキングは微動だにしておらんじゃろ。剣をブンブン振っておるみたいだが、かわらんぞ。
かるく尻尾であしらわれておる。 今までは剣の中からサポートしていたが、本格的に実体化した方が良さそうだのう。「おぬし、少し引け。
ただし、絶対に剣を持ったままにしておけよ」「わっ…わかった」
ひょいっと剣から姿を表す。
「お前、こっちだ。
ワシが相手をしてやるぞ。 ありがたく思え」そう言いながらウォーウルフキングの前に立ちふさがってみた。
「グルルルルゥ……」
「そう血気盛んにならんでもよいのにのぅ」
あっ、いいことを思いついたぞ。
「おい、30秒くれてやる。
その間に、逃げるなら見逃してやってもよいぞ」ちょっと煽りすぎたかのぅ。
余計にグルグルいっておる。 さて、どの程度まで力が出せるか試してみるか。俺はアグリ。何故かこの世界で勇者となった。そして魔王討伐の旅に出ている。で、今はその旅の途中なのだが……「このワシに立てつくとはいい度胸しておるのぅ」容姿端麗で見た目は美しいが終始高圧的な態度の女性が、容赦なく敵を蹴散らしていく。「さすが、ねえさま。素晴らしいですわ」現代で言えばゴスロリ風というのだろうか……そういう服を着ている、まだ容姿としては幼い女の子がうっとりした目をしている。「おいどんにも残しておいてくだされ」強面で筋骨隆々ないでたちの男性が、肉体をこれ見よがしに見せながら敵をなぎ倒す。「もう少しスマートに出来ないものですかね。私のように」執事風ですらっとした体系の男性が、そう言いながら華麗に敵を倒していく。「暑いわ。いややわ。わっちの肌がヒリヒリしてきたわ」後方で素肌を眺めながらのんびりと構えている女性。出るところが出て、引っ込むところは引っ込む、所謂物凄くグラマラスな女性だ。そのスタイルがわかる姿は、目のやり場に困る感じだ。……と、なんだろう。この状況は。みんながみんなだいぶ好き勝手にやってくれている。「おい、お前ら! やりたい放題やって、さっきの話はどうなった?」終始高圧的な態度をしている女性が攻撃をやめて、睨みかえしてきた。「さっきの話とはなんじゃったかのぅ……忘れたぞ 目の前に敵がいるなら堂々と蹴散らすのみじゃ」なんでこう話を聞かないのか。「なぁ、ゾルダ。 敵を倒すのはいいんだけど、もっと自重しろっていったよな。 辺り一面火の海じゃん」終始高圧的な態度を示す女性の名はゾルダという。「これでもワシは自重しておるぞ。 周りが脆いだけじゃ」そしてこのゾルダ。実は元魔王である。「ゾルダの自重は自重になっていないんだって。 後々から言われるのは俺なんだからな」そう、勇者である俺のバディでもある。そして他の4人も元四天王でゾルダの部下である。今はこの5人と共に魔王討伐の旅に出ていたのだった。俺も何故元魔王たちと一緒にいるのか不思議だ。勇者には勇者の仲間がいるのが普通だが、今の俺の仲間と言えるのはこの元魔王と元四天王だ。勇者が元魔王の力を借りて現魔王を倒しに行く。自分で言っていても訳が分からない。それにこいつらは本当に元魔王だし、元四天王なのだ。魔族だし、人の常識にあてはめ
俺は岩城亜久里そこそこ働いて、そこそこ遊んで、そこそこの生活をして過ごしている。どこにでもいそうな普通のサラリーマンである。フツーが一番。目立つのは面倒である。今日も通勤電車に揺られながら出勤する。そして自分の役割だけはこなす。定時になったら、目立たぬようにそろっと帰る。人付き合いもそこそこで、深すぎず浅すぎずの友人関係や仕事関係を保っている。深入りしてトラブルになるのは避けたいんでね。社畜と言われるほど会社に奉公している訳でもないし、かといってちゃらんぽらんに仕事をしている訳ではない。ワークライフバランスっていうのかな。何でもバランスって大事よ。今日も与えられた任務完了して、さっさと家へ帰って筋トレして、風呂入ってから、ゲームでもするか。朝の通勤電車の中でそんなことを頭に思い浮かべながら出勤をしていった。~数日後の休日~昨日の夜に動画を見ていたら、海ではしゃいでいるシーンがふと目に留まった。まだ夏には早いけど、今日は休みだし、一人で海へ行ってみるか。愛車の軽自動車に最低限の荷物を積み、海へと向かう。そういえば、最近あまり遠出はしていなかったな。インドア派だし、そんなに外へ出なくてもね。家でゲームしたり、動画見て過ごせる。外に出る必要性は感じないけど、たまには外に出なくちゃね。窓を開けると海風が心地いい。しばらく走っていると足跡もない白い砂浜が見えてきて、テンションがあがった。近くに車を止めると、ビーサンに履き替えて、海へと突っ走っていく。「冷たっ」さすがに海の水は冷たく、思わず声が出てしまう。しばらく波打ち際を歩いていたが、少し先の海の中が一瞬何かが光ったように見えた。「なんだろう」光が気になり、その方向に近寄っていく。すると、潮の流れが急に早くなったのか、足が引っ張られる。片方の足で踏ん張ってはみるものの、引っ張る力は強く、なかなか抵抗が出来ない。みるみるうちに、海の中へ引きずり込まれてしまう。もがけばもがくほど苦しくなる。「もうダメかも。このまま死ぬのか……」そのまま意識が遠のいていった。はっと目が覚めると、そこは見覚えがない天井だった。周りを見回す。石で作られた壁や柱。天蓋付きのベッド。見たことがないものが並んでいる。ベッドから起き上がり、窓際に行く。閉まっていた窓を両手
………………………………ふと気がつくと、薄暗いところだった。周りには古めかしい鎧や兜、書物や宝石だろうか。そういったものが置かれている。……………………ここでワシは何しているんだ。身体を動かそうとするが、全く動かない。「ここはどこなんだ。 そういえば、ワシは何をしていたんだ」……………………たしか、ゼドがワシのところに来て、勇者を討伐したと勇者の剣や防具を持ってきたんだったかな。そして、その剣を鞘から抜いたら……その後、どうだったかな……ゼドの不敵な笑みだけは思い出せるが……そういえば、ここもワシが知らんところだ。そしてなんで身体が動かないのだ。ワシはどうなっているのだ。立っているような感覚はある。目も見えているようだ。キョロキョロと周りを見回す。左奥の方に光るものが見えたぞ。鏡だ。視線を鏡に向けてみた。?剣が映っているではないか。あれ?鏡はこっちを真っすぐ向いている。こっちはワシがいる方向だよな。??!!!!!「何じゃこりゃ」剣になっているではないか。そういえば……ゼドが持ってきた勇者の剣とやらを抜いた直後にまぶしい光が出てきて……あやつはワシを嵌めおったのか。あれは封印の光か。だからあんな笑みを浮かべていたのか。してやられた。四天王どもはどうなった。そういえばあの時に姿はなかったな。…………………………たしか剣と共に兜や鎧などもあったような。であれば、ワシと同じくそれらに封印されたのか。そうとしか考えられんな。あの時見た覚えがある兜などはここにはなさそうだ。となるとここにはいなさそうだ。周りの雰囲気からしてもここはワシの城ではないな。あとその時からどのくらい時が経っていたのかも分からんのぉ。今がどうなっているか、何かわかる手段はないのか。あちこち見回してみるが、手掛かりになりそうなものはなさそうだ。そうこうしているうちに、扉のカギを開ける音がした。「ガチャ」数名の兵士が扉を開けて入ってきて、灯りをつける。あれは人間どもだな。……ここは人間の支配する国か。兵士たちが話す声が聞こえてくる。「王様は何を持って来いと話されていたんだ」とある兵士が一緒にきた兵士に確認しているようじゃ。「確か、勇者に渡す武器や防具と仰っていたはずだが」確認
マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。ここに王様がいるのだろうか。「勇者様を連れてまいりました」扉の前にたったマリアが近衛兵たちに話しかける。扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。そこには広い大きな間が広がっていた。奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。国王の前につき、マリアが跪く。それと同時に、俺の方に目を送る。あっ、俺も同じことしないといけないのか。慌てて、俺も跪く。「勇者様がお目覚めになりました」マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。 勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」ちょっとムキになり大声で国王に話しかけた。そして、つっかかるように話す。「正確に言うと呼び出したのは私ではない ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらったのだ」俺の様子に多少ひるんだのか、弱弱しい声で国王が答える。「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」さらにつっかかる俺。国王が困った顔をして話し始める。「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」今の状況を長々と説明しはじめた。纏めるとまず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。勇者たちは深手を負って帰還。その後、しばらくは平和になった。ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。魔王に対抗する手段は、この世界にはない。異なる世界から勇者を呼び出すしかない。前任の勇者もそうだった。ということらしい。勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。でも戻る手段はなさそう。覚悟を決めるしかなさそうだ。「事情はわかった。 こうなった以上は仕方ないのかな…… で、この後はどうすればいいんだ」その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった。 では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい。 魔物が増えてきているとの報告がある。 そこの状況確認と魔王に関する情報を
よし。うまく抜け出せたようだ。しかし、あやつは良くワシを選んでくれたな。なんだか力も少し出てきたような感じだ。「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」とあやつに声をかけてみた。そのまま、ちょっと力を入れてみた。すると、剣の外へ向かって体が流れていく感じがした。「んっ……」なんか首が動く。下も向ける手も動かせるぞ。脚もある。「これは……剣から出られたのかのぉ…… もしや封印が解けたのか?」独り言のようにつぶやいた。そしてワシの目の前には剣を持ったまま固まっているあやつがおる。目を丸くしてこちらを見ている。「何をそんなにこちらを見ておる」あっけにとられた顔をしておるあやつが、深呼吸して話し始めた。「………… おっ……お前は……だっ……誰だ!?」まぁ、ビックリするよのぅ。このワシですらビックリしておるのじゃから。「ワシか? ワシはソフィ……んっうん……ゾルダだ」あやうくソフィアというとろこだった。この名前はどうも魔王らしくなくて困る。改めてワシは言い直した。「魔王のゾルダだ」魔王と聞いてさらに驚いた様子のあやつ。なんとも言えん顔をしておるのぅ。「まっ……魔王!? さっき王様が話していた復活した魔王のこと!?」さらに驚いたのか、剣を離して床に落としよった。今度は剣の中に体が吸い込まれる感覚に襲われる。ふと見ると、天井だけが見えていた。どうやら剣にまた閉じ込められたようだ。封印が完全に解けている訳ではなさそうだ。「おい、おぬし! その剣を持て!」声が聞こえたのか慌ててあやつが剣を持つ。するとまた体が流れていく感じがした。すると、また動けるようになった。どうやらあやつが剣を持っている間だけ、外に出れるようだ。また出てきたワシにビックリしているようだ。「なんで魔王がここにいるんだ?」あやつが慌ててワシに問いただしてきた。…………おっと、そういえば今は魔王ではなかったな。「あそこでじじいが話していた魔王はゼドのことじゃ。 言うなれば、ワシは元魔王ってところじゃな」あやつはまだ状況を理解できておらんようじゃ。ワシへの確認を続けておる。「元魔王? 元だろうが前だろうかよくわからないけど…… で、その元魔王が何故にここに?」そう言われても、ワシも困るのじゃが……適当に話をし
昨日はいろいろとあったな。王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。自分のステータスの見方も。「ステータス、オープン」レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。そういえば、ゾルダが言っていたな。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「ステータスの見方はわかったか? おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。その期待をしていたが、不発に終わったようだ。そう世の中うまくいかないよな。「なんだよ~。 よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。「あっ、こっちの話。 俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」感心した様子でうなづくゾルダ。「そうなのか…… おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。伝説という感じの話はありそうだけど。「まぁ、そういうことだ。 しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」俺は自分を納得させるように言い聞かせた。「そういうことかもしれんのぅ…… おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。「んっ…… でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。「それは、どういうこと?」俺に何かがあるのか?ちょっと期待してしまう。ゾルダは手を当てながら話を続ける。「ワシは完全にではないが、素養というのを見る
さて…… ようやく外にも出れたし、さっさと封印の解き方を探さないとな。よくわからんのは、あやつがこの剣を握ったときは実体化が出来るようじゃが…… 完全に封印が解けている訳ではなさそうじゃ。 あやつが封印を解くカギやもしれん。 どうせまだこの剣からは出られんのだし、しばらくは同行するしかなさそうじゃ。あと、力も完全に出せている感じはしないのぅ。 さっきのあやつの戦いに使った力も、本来ならウォーウルフごときは姿形も残さないはずじゃがのう。 魔力を探知できる範囲も思ったより狭いな。 あやつがある程度強くなる前に強敵に出くわさないといいがのぅ。しかし、さっきの戦いは滑稽だったのぅ。 あやつがいた世界には剣も何もないのだろうか。 この世界は己の身は己で守らんといかんから、年端もいかない子供たちですら武器を使うことを教えられている。 あそこのなんとかっていう王もたぶんそれぐらいは出来ているだろうというところで訓練もせずに放り出したな。 これじゃ魔王を倒す前に、あやつが死ぬぞ。「ゾルダ、この先にはまださっきの狼みたいな怪物はいるのか?」ワシが考え事しているところだというのに、あやつは尋ねてくる。「はっきりと感じるだけでも、数十匹はおるようじゃ。 その先はもっとおるやもしれん」死なれては困るし、死なぬように教えておかんとな。「そんなにいるのか? いつになったら目的の村につくのやら……」あやつがため息交じりにつぶやいておる。 たかがウォーウルフごときで何をしておるのじゃ。「ほれ、そうこうしているうちに、すぐそこに1匹おるぞ」少しは自信を持ってもらわないとのぅ。 魔王のところまで行く前に、旅を辞めかねん。「さっき、レベルが上がって、スキルを覚えたじゃろ。 1匹だし、今度は手助けせんから、1人で戦ってみろ」1対1だし、なんとかなるじゃろ。 出来るかぎり手助けをせずに、強くなってもらわないとな。 こんなところでくたばりでもしたら、ワシの封印が解けないしの。 いざとなったら手助けはしてやるがな。「1人でか……」またボソッとあやつが独り言を言っておる。 相変わらず自信なさげじゃのぅ。「新しいスキル、新しいスキル…… これか。この【スピントルネード】ってやつは……」字のごとくそのままじゃろ。 何を深く考えてい
昨日はいろいろとあったな。王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。自分のステータスの見方も。「ステータス、オープン」レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。そういえば、ゾルダが言っていたな。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「ステータスの見方はわかったか? おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。その期待をしていたが、不発に終わったようだ。そう世の中うまくいかないよな。「なんだよ~。 よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。「あっ、こっちの話。 俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」感心した様子でうなづくゾルダ。「そうなのか…… おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。伝説という感じの話はありそうだけど。「まぁ、そういうことだ。 しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」俺は自分を納得させるように言い聞かせた。「そういうことかもしれんのぅ…… おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。「んっ…… でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。「それは、どういうこと?」俺に何かがあるのか?ちょっと期待してしまう。ゾルダは手を当てながら話を続ける。「ワシは完全にではないが、素養というのを見る
よし。うまく抜け出せたようだ。しかし、あやつは良くワシを選んでくれたな。なんだか力も少し出てきたような感じだ。「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」とあやつに声をかけてみた。そのまま、ちょっと力を入れてみた。すると、剣の外へ向かって体が流れていく感じがした。「んっ……」なんか首が動く。下も向ける手も動かせるぞ。脚もある。「これは……剣から出られたのかのぉ…… もしや封印が解けたのか?」独り言のようにつぶやいた。そしてワシの目の前には剣を持ったまま固まっているあやつがおる。目を丸くしてこちらを見ている。「何をそんなにこちらを見ておる」あっけにとられた顔をしておるあやつが、深呼吸して話し始めた。「………… おっ……お前は……だっ……誰だ!?」まぁ、ビックリするよのぅ。このワシですらビックリしておるのじゃから。「ワシか? ワシはソフィ……んっうん……ゾルダだ」あやうくソフィアというとろこだった。この名前はどうも魔王らしくなくて困る。改めてワシは言い直した。「魔王のゾルダだ」魔王と聞いてさらに驚いた様子のあやつ。なんとも言えん顔をしておるのぅ。「まっ……魔王!? さっき王様が話していた復活した魔王のこと!?」さらに驚いたのか、剣を離して床に落としよった。今度は剣の中に体が吸い込まれる感覚に襲われる。ふと見ると、天井だけが見えていた。どうやら剣にまた閉じ込められたようだ。封印が完全に解けている訳ではなさそうだ。「おい、おぬし! その剣を持て!」声が聞こえたのか慌ててあやつが剣を持つ。するとまた体が流れていく感じがした。すると、また動けるようになった。どうやらあやつが剣を持っている間だけ、外に出れるようだ。また出てきたワシにビックリしているようだ。「なんで魔王がここにいるんだ?」あやつが慌ててワシに問いただしてきた。…………おっと、そういえば今は魔王ではなかったな。「あそこでじじいが話していた魔王はゼドのことじゃ。 言うなれば、ワシは元魔王ってところじゃな」あやつはまだ状況を理解できておらんようじゃ。ワシへの確認を続けておる。「元魔王? 元だろうが前だろうかよくわからないけど…… で、その元魔王が何故にここに?」そう言われても、ワシも困るのじゃが……適当に話をし
マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。ここに王様がいるのだろうか。「勇者様を連れてまいりました」扉の前にたったマリアが近衛兵たちに話しかける。扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。そこには広い大きな間が広がっていた。奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。国王の前につき、マリアが跪く。それと同時に、俺の方に目を送る。あっ、俺も同じことしないといけないのか。慌てて、俺も跪く。「勇者様がお目覚めになりました」マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。 勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」ちょっとムキになり大声で国王に話しかけた。そして、つっかかるように話す。「正確に言うと呼び出したのは私ではない ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらったのだ」俺の様子に多少ひるんだのか、弱弱しい声で国王が答える。「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」さらにつっかかる俺。国王が困った顔をして話し始める。「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」今の状況を長々と説明しはじめた。纏めるとまず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。勇者たちは深手を負って帰還。その後、しばらくは平和になった。ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。魔王に対抗する手段は、この世界にはない。異なる世界から勇者を呼び出すしかない。前任の勇者もそうだった。ということらしい。勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。でも戻る手段はなさそう。覚悟を決めるしかなさそうだ。「事情はわかった。 こうなった以上は仕方ないのかな…… で、この後はどうすればいいんだ」その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった。 では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい。 魔物が増えてきているとの報告がある。 そこの状況確認と魔王に関する情報を
………………………………ふと気がつくと、薄暗いところだった。周りには古めかしい鎧や兜、書物や宝石だろうか。そういったものが置かれている。……………………ここでワシは何しているんだ。身体を動かそうとするが、全く動かない。「ここはどこなんだ。 そういえば、ワシは何をしていたんだ」……………………たしか、ゼドがワシのところに来て、勇者を討伐したと勇者の剣や防具を持ってきたんだったかな。そして、その剣を鞘から抜いたら……その後、どうだったかな……ゼドの不敵な笑みだけは思い出せるが……そういえば、ここもワシが知らんところだ。そしてなんで身体が動かないのだ。ワシはどうなっているのだ。立っているような感覚はある。目も見えているようだ。キョロキョロと周りを見回す。左奥の方に光るものが見えたぞ。鏡だ。視線を鏡に向けてみた。?剣が映っているではないか。あれ?鏡はこっちを真っすぐ向いている。こっちはワシがいる方向だよな。??!!!!!「何じゃこりゃ」剣になっているではないか。そういえば……ゼドが持ってきた勇者の剣とやらを抜いた直後にまぶしい光が出てきて……あやつはワシを嵌めおったのか。あれは封印の光か。だからあんな笑みを浮かべていたのか。してやられた。四天王どもはどうなった。そういえばあの時に姿はなかったな。…………………………たしか剣と共に兜や鎧などもあったような。であれば、ワシと同じくそれらに封印されたのか。そうとしか考えられんな。あの時見た覚えがある兜などはここにはなさそうだ。となるとここにはいなさそうだ。周りの雰囲気からしてもここはワシの城ではないな。あとその時からどのくらい時が経っていたのかも分からんのぉ。今がどうなっているか、何かわかる手段はないのか。あちこち見回してみるが、手掛かりになりそうなものはなさそうだ。そうこうしているうちに、扉のカギを開ける音がした。「ガチャ」数名の兵士が扉を開けて入ってきて、灯りをつける。あれは人間どもだな。……ここは人間の支配する国か。兵士たちが話す声が聞こえてくる。「王様は何を持って来いと話されていたんだ」とある兵士が一緒にきた兵士に確認しているようじゃ。「確か、勇者に渡す武器や防具と仰っていたはずだが」確認
俺は岩城亜久里そこそこ働いて、そこそこ遊んで、そこそこの生活をして過ごしている。どこにでもいそうな普通のサラリーマンである。フツーが一番。目立つのは面倒である。今日も通勤電車に揺られながら出勤する。そして自分の役割だけはこなす。定時になったら、目立たぬようにそろっと帰る。人付き合いもそこそこで、深すぎず浅すぎずの友人関係や仕事関係を保っている。深入りしてトラブルになるのは避けたいんでね。社畜と言われるほど会社に奉公している訳でもないし、かといってちゃらんぽらんに仕事をしている訳ではない。ワークライフバランスっていうのかな。何でもバランスって大事よ。今日も与えられた任務完了して、さっさと家へ帰って筋トレして、風呂入ってから、ゲームでもするか。朝の通勤電車の中でそんなことを頭に思い浮かべながら出勤をしていった。~数日後の休日~昨日の夜に動画を見ていたら、海ではしゃいでいるシーンがふと目に留まった。まだ夏には早いけど、今日は休みだし、一人で海へ行ってみるか。愛車の軽自動車に最低限の荷物を積み、海へと向かう。そういえば、最近あまり遠出はしていなかったな。インドア派だし、そんなに外へ出なくてもね。家でゲームしたり、動画見て過ごせる。外に出る必要性は感じないけど、たまには外に出なくちゃね。窓を開けると海風が心地いい。しばらく走っていると足跡もない白い砂浜が見えてきて、テンションがあがった。近くに車を止めると、ビーサンに履き替えて、海へと突っ走っていく。「冷たっ」さすがに海の水は冷たく、思わず声が出てしまう。しばらく波打ち際を歩いていたが、少し先の海の中が一瞬何かが光ったように見えた。「なんだろう」光が気になり、その方向に近寄っていく。すると、潮の流れが急に早くなったのか、足が引っ張られる。片方の足で踏ん張ってはみるものの、引っ張る力は強く、なかなか抵抗が出来ない。みるみるうちに、海の中へ引きずり込まれてしまう。もがけばもがくほど苦しくなる。「もうダメかも。このまま死ぬのか……」そのまま意識が遠のいていった。はっと目が覚めると、そこは見覚えがない天井だった。周りを見回す。石で作られた壁や柱。天蓋付きのベッド。見たことがないものが並んでいる。ベッドから起き上がり、窓際に行く。閉まっていた窓を両手
俺はアグリ。何故かこの世界で勇者となった。そして魔王討伐の旅に出ている。で、今はその旅の途中なのだが……「このワシに立てつくとはいい度胸しておるのぅ」容姿端麗で見た目は美しいが終始高圧的な態度の女性が、容赦なく敵を蹴散らしていく。「さすが、ねえさま。素晴らしいですわ」現代で言えばゴスロリ風というのだろうか……そういう服を着ている、まだ容姿としては幼い女の子がうっとりした目をしている。「おいどんにも残しておいてくだされ」強面で筋骨隆々ないでたちの男性が、肉体をこれ見よがしに見せながら敵をなぎ倒す。「もう少しスマートに出来ないものですかね。私のように」執事風ですらっとした体系の男性が、そう言いながら華麗に敵を倒していく。「暑いわ。いややわ。わっちの肌がヒリヒリしてきたわ」後方で素肌を眺めながらのんびりと構えている女性。出るところが出て、引っ込むところは引っ込む、所謂物凄くグラマラスな女性だ。そのスタイルがわかる姿は、目のやり場に困る感じだ。……と、なんだろう。この状況は。みんながみんなだいぶ好き勝手にやってくれている。「おい、お前ら! やりたい放題やって、さっきの話はどうなった?」終始高圧的な態度をしている女性が攻撃をやめて、睨みかえしてきた。「さっきの話とはなんじゃったかのぅ……忘れたぞ 目の前に敵がいるなら堂々と蹴散らすのみじゃ」なんでこう話を聞かないのか。「なぁ、ゾルダ。 敵を倒すのはいいんだけど、もっと自重しろっていったよな。 辺り一面火の海じゃん」終始高圧的な態度を示す女性の名はゾルダという。「これでもワシは自重しておるぞ。 周りが脆いだけじゃ」そしてこのゾルダ。実は元魔王である。「ゾルダの自重は自重になっていないんだって。 後々から言われるのは俺なんだからな」そう、勇者である俺のバディでもある。そして他の4人も元四天王でゾルダの部下である。今はこの5人と共に魔王討伐の旅に出ていたのだった。俺も何故元魔王たちと一緒にいるのか不思議だ。勇者には勇者の仲間がいるのが普通だが、今の俺の仲間と言えるのはこの元魔王と元四天王だ。勇者が元魔王の力を借りて現魔王を倒しに行く。自分で言っていても訳が分からない。それにこいつらは本当に元魔王だし、元四天王なのだ。魔族だし、人の常識にあてはめ